3.ソフトウェアは、実行可能な知識である
大槻, 2014.02.17
ソフトウェアに対する新しい見方をしようという活動である「知働化研究会」の主要コンセプトが「実行可能な知識」です。従来のソフトウェアづくりでは、プログラムコードが中心で、それを工業的、組織的に開発するための文書があり、正しさを検証するための膨大なテスト、プロジェクトマネジメント手法による精密な段取りを要していました。出来上がったプログラムは、その稼働環境、社会の中での役割や位置づけが比較的安定していました。
こういった情況を打開し、ソフトウェアとは何かを見つめ直し、社会の中でダイナミックに変化していくソフトウェアやそれへの関わり方を、探求していく必要があります。
我々は、知識主導社会に生きており、「知識」はその中心です。ソフトウェアに関わる活動は、知識活動です。それは、作り方/使い方の知識であり、それを糸や布のように紡いでいくことであり、実世界の知識を実行可能な知識に埋め込み/変換していくことであり、知識の贈与と交換とが行われる世界でもあります。
元来、『新ソフトウェア宣言』の検討は、知働化研究会の活動の一環として企画したものです。この知働化研究会のコンセプトが「実行可能な知識」です[Yamada2004, 2009]。この考え方に基づき、従来のアジャイルプロセスの意義を再検討し、開発プロセスをソフトウェアが置かれる世界からのフィードバックを明確に位置づけたものが『ΛVプロセス』です[Otsuki2012a]。
現段階で実行可能知識であるソフトウェアについての研究課題は以下の項目があります。
•ソフトウェアが創造的人工物(artifact)であり、これをデザインする方法を確立する。
そのために、「創造性」に関する理論と実践方法を探求しなくてはならない。
•ソフトウェアの利用面、実世界側でのプロセスを明確にする。
特に、実世界側の要素やプロセスの「抽象化」に焦点をあてて探求しなくてはならない。
•「実行」という概念そのものを、明確にする。従来のソフトウェアでの実行概念に加え、
計算、処理などの社会的な意味、人や組織を含んだ意味での実行概念を探求しなくてはならない。